言葉が出てこない・話していたことを忘れる…それって高次脳機能障害？
「言葉が出てこない」「話していた内容を忘れてしまう」といった症状は、日常生活で誰もが経験することがあります。しかし、これらの症状が頻繁に起こる場合、高次脳機能障害の可能性があります。
高次脳機能障害とは？
高次脳機能障害とは、脳の損傷により記憶、注意、言語、行動、感情などの機能に障害が生じる状態を指します。外見からは分かりにくいため、周囲の理解を得にくいことがあります。
主な原因には以下のようなものがあります：
- 脳血管障害（脳梗塞、脳出血など）
- 頭部外傷（交通事故、転倒など）
- 脳炎や脳腫瘍
- 低酸素脳症
高次脳機能障害の症状は多岐にわたり、個人差があります。特に、言語や記憶に関する障害は日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
言葉が出てこない・話していたことを忘れる原因は？
これらの症状の原因として、以下のようなものが考えられます：
- 失語症：脳の言語中枢が損傷されることで、言葉をうまく使えなくなる状態。
- 記憶障害：新しい情報を覚えられない、または思い出せない状態。
- 注意障害：集中力が続かず、話の内容を把握できない状態。
これらの症状が複合的に現れることもあり、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。
どのような症状が現れるの？
高次脳機能障害の症状は多岐にわたりますが、主なものを以下に示します：
- 言語障害（失語症）：言葉が出てこない、言い間違いが多い、相手の話が理解できない。
- 記憶障害：最近の出来事を忘れる、同じ質問を繰り返す、物の置き場所を忘れる。
- 注意障害：集中力が続かない、気が散りやすい、作業を途中でやめてしまう。
- 遂行機能障害：計画を立てられない、段取りができない、柔軟な対応が難しい。
- 社会的行動障害：感情のコントロールが難しくなり対人関係や社会生活に支障をきたす状態。
社会的行動障害とは？
高次脳機能障害の中でも見落とされやすいのが「社会的行動障害」です。これは感情や行動のコントロールが難しくなり、対人関係や社会生活に支障をきたす状態を指します。
- 些細なことで怒る・感情の起伏が激しくなる
- 思ったことをすぐ口に出してしまう（抑制が効かない）
- 場にそぐわない行動をとる
これらは周囲に「性格が変わった」と誤解されることが多く、本人や家族にとっても大きなストレスになります。
いつ医療機関を受診するべき？
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
- 会話中に自分が話していた内容を忘れてしまうことが多い
- 言いたい言葉が出てこない
- 最近、物忘れや集中力の低下が気になる
- 家族や周囲から「最近様子が違う」と指摘された
受診先としては、神経内科、脳神経外科、リハビリテーション科、物忘れ外来などが適しています。
MRIやCTによる画像診断、神経心理学的検査で脳の機能評価を行います。
日常生活でできる工夫はある？
高次脳機能障害やその疑いがある場合でも、日常生活でのちょっとした工夫が役立ちます。
- メモを取る習慣をつける：手帳やスマホのメモ機能を活用
- ルーティンを作る：毎日の行動を一定にして混乱を防ぐ
- 静かな場所で会話する：注意力を保ちやすくなる
- 家族や職場に症状を共有する：理解と協力を得る
高次脳機能障害の具体的な事例とは？
事例1：言葉が出てこない（喚語困難）のケース
60代・女性／主婦
近所の友達とのおしゃべり中に、「あの…ほら…あれよ、テレビに出てた女優さん！」というように、いつも簡単に出てきた言葉が出てこなくなってしまう。家族との会話でも「それ、それ」と指差すことが増え、本人もストレスを感じている。
診断結果：軽度の言語性失語が見られ、高次脳機能障害の可能性ありとされ、リハビリ言語療法を開始。
事例2：話の流れを忘れてしまう（記憶障害）のケース
50代・男性／営業職
商談中に自分が何の話をしていたのか分からなくなり、「えーと、どこまで話しましたっけ？」と何度も確認するようになった。上司からも「最近会話がちぐはぐだ」と指摘され、本人も自覚していた。
診断結果：脳梗塞の軽微な痕跡があり、注意障害と記憶障害が混在していると判明。職場復帰支援プログラムを導入。
事例3：感情のコントロールが難しい（社会的行動障害）のケース
40代・女性／パート勤務
小さなミスに対して感情的になったり、職場で突然怒り出したりすることが増えた。本人も「自分でもなぜこんなにイライラするのか分からない」と悩んでいた。
診断結果：過去の交通事故による軽度脳外傷の影響で、前頭葉の機能低下による社会的行動障害が確認された。
まとめ
「言葉が出てこない」「話していたことを忘れる」といった症状は、加齢や疲労による一時的なものから、脳の機能障害による深刻なサインである場合までさまざまです。
特に高次脳機能障害は、見た目では分かりにくいため本人も周囲も気づきにくいという特徴があります。
日常生活に支障を感じる場合や、症状が頻繁に起きる場合は、早めに神経内科などの専門医に相談しましょう。
また、症状に合わせた工夫やリハビリ、家族・周囲の理解が回復への大きな支えになります。
よくある質問（Q&A）
Q1. 高次脳機能障害は治るの？
A. 完全に元の状態に戻るのは難しいこともありますが、リハビリや環境調整で日常生活の自立を目指すことができます。
Q2. 物忘れと認知症の違いは？
A. 一般的な物忘れは「体験の一部を忘れる」のに対し、認知症では「体験そのものを忘れている」ことが多いです。日常生活に支障があるかがポイントです。
Q3. 家族が変だと感じたとき、どうすればいい？
A. まずは本人に優しく声をかけ、不安を共有しながら受診を勧めましょう。診断には神経内科や物忘れ外来が適しています。
参考文献
- 令和4年版 高次脳機能障害 診断基準ガイドライン
- 我が国の高次脳機能障害の診断実態に関する調査研究
- 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕
- 日本高次脳機能学会
- 国立障害者リハビリテーションセンター ガイドブック・マニュアル
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